先日(十一月八日)、この日は母の訃報を聞く一日前だったんだが、久し振りに楽しい時間を過ごして来た。
横浜の阪東橋商店街のアーケード突き当りにある『三吉演芸場』への観劇ツアーだ。そこに私の生徒が出演していたからです。
「北斗潤」といってまだまだ未熟な若者だ。決して器用とは言えない彼を普通のテンポで甘やかして育てては、技術も精神力(集中、忍耐)も容易に成長しない。
そこで思い切った発想で、日本を一年中旅して公演する三峰達(トオル)さんが座長をつとめる大衆演劇の一座、劇団三峰組に身柄を預け、劇団員と寝食を共にしながら毎日舞台に立ち、終演後にその作品の稽古が夜中迄と、厳しい体験をしているわけです。
金沢おぐら座から横浜三吉演劇場へと所かわって二ケ月有余、一座にお世話になって少しは苦労が身について一皮むけた姿を見ようと、事務所スタッフ達と楽しみに出掛けた。
商店街のアーケードには、昔からの懐かしい風情が漂っていて、その値段の安さ、新鮮さ、品数の多さ、売り声の陽気さと、下町の活気が伝わってきてワクワクする。
劇場は総コンクリート造りで、芝居小屋の持つ独特の大衆的な匂いは余り感じられないかわりに、清潔感にあふれた落ち着いた、小屋というより立派な劇場の造りで意外だったナ。
そんな入口にはそれでも昔懐かしい雰囲気の役者さんたちのノボリが並び、中に入ると客席にはもう七、八十人のオバ様方と五、六人のオジ様が開演前のひとときをくつろいでいる様子だ。
その客席の中を「飛雄馬」さん扮する粋な日本髪の姐さんが、おなじみのお客をもてなしている。これも又、独特な大衆演劇の風情だ。
前もって私が観に来る事が一座に伝わっていたらしく、彼女(彼?)のアイサツを受けて多いに照れ臭かった。唯、北斗潤には内緒にして貰っている。そうでなくても緊張グセのある奴が、私が観ていると知ったら芝居がガタガタになるかもと心配だったから。これも甘やかしかな?
幕が開いて登場した三峰座長の女振りの艶やかさに私の頬も思わずゆるんでしまう。客にコビない上品な色気と美貌に引き込まれてしまった。
飛雄馬さん、三峰達さんに続いて登場した千澤秀さん。この劇団三峰組の公演には客演で、来月からは秀さんの座長公演だそう。彼は「松井誠」さんのオイゴさんだそう。
成程、眼差し、表情、仕草、どれをとっても実に松井さんに良く似てる! ほんの少し松井さんよりふっくらした感じが又色っぽさを感じさせる。
松井さんとは何度か舞台共演してるし、昨年はNHK大河ドラマの『風林火山』で一年間御一緒だったので気心も知れてるし、親しみも増す様だ。
その松井誠さんを師と仰ぐ座長さん達が、それぞれ下町かぶき組として全国で公演して廻っている。皆さん、立役(男)から女形、ダンスに日舞に歌と芸達者ばかり。
その中には、芝居でチョッと出させて貰って皆さんの呼吸を感じとり、一座での家族的なふれ合いや、厳しい条件の中での稽古、お客への気配り、小道具やカツラ、衣裳の整理整頓、照明係としてのスポットを役者に当てる担当、お客を心地良く送り出すサービス。
普段私が出演している舞台では体験出来ない一つ一つから、北斗潤がきっと何かを掴んで帰ってくるだろうと信じてるんだjけどネ。
お客の送り出しに立っている。先刻迄のヤクザのチンピラ役の扮装のまま腰に一本ドッコ(刀)を差し、顔に血糊をつけた汚れた顔に照れ臭そうに笑顔をつくっている北斗とはじめて顔を合わせてそう感じたネ。
東京から母上が観に来た時、なにを感じ取ってくれるか楽しみなんだ。
今日から来月年末迄、劇団三峰組から劇団秀と上演中、一度のぞいてみて、北斗潤を見つけたら応援してやって欲しいナ。





