出会ったばかりのころは、会えばセックスばかりしていた。待ち合わせをして、食事をして、ベッドに潜りこむ。それが休日ならそのまま寝入って、起きて、また抱きあって、お腹がすいたらやっと服を着て、外に出る。それだけであっという間に時間が過ぎた。いつのまに昼にふたりで出かけるようになったのかは覚えていないが、そうなって初めて、私とFふたりで楽しめる趣味がまったくないことに気がついた。映画を観にいくにしても、好みがまったく違う。彼は100kgを超す巨体にも関わらず、冬はスノボ、夏はサーフィンに繰り出すが、私にはそんなアクティブな趣味はない。共通項がないふたりで過ごす休日に頭を悩ませていた時期もあったが、最近は朝から動けるなら、必ず出かけるスポットがある。動物園と、水族館だ。
房総の海辺から東京に帰る車のなかで、Fは何度もシャチのショーについて話す。白と黒のつややかな体が水面から飛び出し、ダイナミックに水しぶきをあげて落下するたびに、彼は歓声を挙げていた。ショーでは人懐っこい様子でも、えさをもらうときにギラリと光る歯に、この動物が本来もつ獰猛さを見て、気に入っているようだった。大きくて力強い海洋生物に惹かれるあたりが男性らしいと、助手席の私はほほえましく思う。私は深海に潜む生物が好きだ。こういう施設がなければ一生目にすることのないはずの生き物は、すべて不思議な形状をしている。何を食べて、何を見て、何を聞いて生きているのか想像をめぐらしながら、神秘的なようで、どこか愛嬌もあるそれらの生き物を、飽きずに眺めた。
けれど、この日いちばんの話題は、白イルカだった。オスの腹からホースのようなものが出ているのを見つけ、ふたりで目を凝らした。どうやらメスに交尾をしかけようとしているようで、初めて見るイルカのペニスに、周囲のおとなたちはどんな表情をしていいのか決めあぐね、子どもたちは何が起きているのかわからずにキョトンとしていた。思い出しているあいだずっと、車内でふたりの笑い声が弾けていた。動物や魚を見ることは、ライブを見るようなものだ。楽曲やストーリーを知っていても、そこに収まらないものを見られるのが生のステージの醍醐味だが、動物たちはテレビで見たり、頭で思い描いているときとはまったく違う顔を見せ、私たちの期待を軽やかに裏切ってくれる。その点でいうと、子どものころよりも先入観で凝り固まったいまのほうが、こうしたスポットを満喫できているのかもしれない。
どこの動物園や水族館に行っても、たいてい初めて見る種類の生き物がいる。それらを前に一緒に驚き、知らなかったことを同時に知るという体験を共有できるようになったからこそ、趣味も育った環境も価値観もまるで異なる私とFの関係が、1年半も続いているのだろう。カラダだけの関係というのは、そうそう続くものではない。関東近県の動物園や水族館を指折り数え、規模の大小は問わず全部行ってみようと話し合う。その一方で、すでに行ったことのあるところでも動物の赤ちゃんが生まれたというニュースを聞けば、もう一度リピートしたくなる。「まだまだ行かなきゃならないところがたくさんあるね」とハンドルを握るFがなぜか力強くそう言う。そうね、行きたいねと、いつもは明確な約束を避ける私が答えたことに、Fがひどく安堵した様子が伝わってきた。